今年の正月

 「元号が変わるのなんてどうでも良いけど俺達の10年代が終わるのがショックすぎる」と師走に会った先輩は言っていたが、特になんの感慨もなく年を越し(ハライチの年越しラジオ聞いてた)、いつものように親戚と集まり、お笑いを見て、そこそこ混雑する地元の神社に行き、あいも変わらぬ正月を過ごしていた。

 

 一点いつもの正月と違うこととして、『男はつらいよ  おかえり 寅さん』を家族で観た。「正月は寅さん」というかつてあった正月のファミリーイベントを追体験できるのがちょっとおもしろい。本当は気合を入れて少し遠出をして松竹の映画館で観ようかなとも思っていたのだけれど、国道沿いのショッピングモールに併設されたシネコンで映画を観て、ついでにモール内のチェーンのレストランで食事を済ませる。これはこれで現代の家族って感じで良いイベント消化だった。

 

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 映画は48作目の「紅の花」から25年後の現代が舞台で主役は甥の満男へと世代交代。1作目が1969年だから95年の「紅の花」なんて相対的に最近の気がしていたから改めてシリーズの長さに驚くし、当然のように今作に出ている浅丘ルリ子にも驚く。シリーズ終盤は明らかに衰えが見えた渥美清がその後すぐ亡くなられたわけで、さすがにメイクは多少濃くなったとはいえ、劇中では“あの”名マドンナ「リリー」の凛とした佇まいを崩さないのはさすが。前田吟倍賞千恵子もご健在。博もさくらも良い年の重ね方をしているんだなぁという感があって良かった。48作目からご高齢だった役者陣はしょうがないにしろ、こうして当時の主要キャストが自然な形で集合できたのを見れて幸せ。ディズニー見てるか?

 

 映画の作りも公式が作った寅さんMADといった感じだったけど特に大きな不満もなく面白かった。現代の満男が過去の名シーンを劇中に挿入するために、そのシーンの前置きになる舞台を整えるように話をまわす。リマスターされてきれいになった寅さんのやらかしや名シーンを観て、そのたびに笑い、泣く。観たことのあるシーンでもそのタイミングや回数がしつこくないので、つい笑ってしまう。よくできたファンムービーですわ。

 

 過去作の映像以外だと、橋爪功演じる老人ホームに入居した泉の父親が満男から金をせびるシーン。ここは客も笑っていた。末期の老人を湿っぽくしないで、笑いで締めるのが山田洋次っぽい。以前なにかの本で監督が「笑われる本人が笑わせようとしないで、本気で怒ったり悔しがったりしているから観客は笑うんだ」(超意訳)みたいなことを言っていたのをおぼろげに思い出した。これが多分そういうことなんだろう。

あと、橋爪功がもらった万札を速攻で首から下げたがま口財布にグシャグシャにねじ込むシーン。「ああ、この人と関係築くのはダルかろう」と思わせる。半ばイッちゃった目の演技もすごかった。

 

 やっぱり今作でもマドンナの家族や身辺は少し機能不全を起こしてて、それを助けようとする主人公(今回は満男、過去作では寅)、対比されるようにでてくる幸せなとらやのお茶の間。こういった要素も過去作から踏襲されてて良かった。他にもファンムービー要素はたくさんあって、映画のスタートは夢からのタイトルバックドーン、刃牙の全選手入場ばりに全マドンナの映像を入れたりと、全作見てきたファンを楽しませたろうという作り手の気持ちを感じた。寅さんがその身を持って伝えてきたことは形を変えて満男に受け継がれている感もあったし、家族の評判も桑田佳祐の歌うテーマ曲が若干クドいくらいで上々だった。年末のスター・ウォーズのモヤモヤを上手いこと消化できたような気がするけど、というかなんで松竹にできてディズニーは上手いこと継承ができなかったんですかね…とちょっとまたゴニョゴニョしてしまうからこの件については考えるのをやめよう。まぁまとめると良い年明けだったということで。